今日から執事
核心に触れて
真斗と一緒にお化け屋敷に行ったまでは良かったが、屋敷の中に足を踏み入れてからどうも真斗が辛そうだった。
途中で急に立ち止まり早綺を見るなり、驚愕の表情を浮かべた真斗を見たときは、さすがに早綺も心配になった。
どうしたの?
心で問うて、手を伸ばそうとしたとき
「…絢音」
という驚きとも戸惑いともつかない声があたりに響いた。
絢音って誰?私は絢音じゃないよ。
そう言う前に真斗は俯いてしまって声をかけられる状態ではなかった。
だから。
一度は引っ込めようとした手で真斗の頬を包むと、勢い良く真斗が顔をあげ、目を瞬いた。
「どうしたの?」
瞬間、真斗は強張っていた身体の力を抜き息を吐いた。
そして今まで一度たりとも見たことのない、疲れたような笑みを見せた。
はっとして息を呑んだのは、今度は早綺の番だった。
無理して笑っている。そう思えたのだ。
唖然として、頬に当てた手を引いたがそれは叶わず。
早綺の手をさらに包む形で真斗の大きな手が添えられた。
真斗の偽りの笑みに相反して、包む手の温度は本当の気がして逃れようともがく。
けれど力の差は歴然としていて結局諦めた。
「…早綺」
力を緩めたのと真斗の囁きは同じで早綺は聞き逃しそうになる。
「なに?」
問うと今度こそ柔らかな笑顔を向けてきた。
「ありがとう」
そう言った。
早綺は照れくさくて、はにかむ。
絡まった視線は外れることを知らず、暫くは交差したままであった。