今日から執事
お化け屋敷から樫原の屋敷に帰ってくるなり、真斗は自室に篭もりきってしまった。
その事を神嵜に言っても放っといてやれと言われるばかりで、早綺は先刻からそわそわしっぱなしである。
だが放っといてやれと言われて放っておける質ではない早綺は、偶然真斗の部屋の前を通りかかったという大義名分で、様子を見に行く事にした。
赤い絨毯が敷かれた階段を登る。
真斗は執事なので階段から近い位置の部屋ではなく、階段から一番遠い場所にある空き部屋を使っている。
空き部屋といっても、装飾などは他の部屋と同じで、特に変わった所は無いのだが。
自分の靴音が耳障りなほど大きく響く。
真斗のもとへ近付くにつれて、鼓動が跳ね上がるのが分かる。
なにをこんなに緊張しているの?
真斗に会いに行くだけだというのに、早鐘と化した鼓動は収まる兆しがない。
そうして真斗の部屋に着いた。
ドアの前で深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
拳を握りしめ、それをドアにかざした時、ドアを隔てた向こうから
「絢音!」
という悲痛な叫びが聞こえてきた。