今日から執事
早綺は驚いてとっさに伸ばした手を引っ込め、耳をそばだてた。
部屋からは荒い真斗の呼吸が聞こえてくる。
本来ならば勢い良くこのドアを開けて真斗に駆け寄りたいところだが、何故だか躊躇われた。
「ごめん…」
続いて聞こえた小さな呟き。
それは何に対しての謝罪なのか。
「お前は俺を恨んでいるはずだろう?」
自嘲と共に漏れてくる声。
何故、苦しんでいるの?
そんなに苦しまなくて良いんじゃないの?
けれど言いたかった言葉は喉に張り付き音にはならなかった。
早綺の胸の内は語られることなく、心底に置き去られたまま。
早綺は前髪を撫でつけ、顔を隠すように俯いた。
そのまま声をかけることなく、部屋を後にした。