今日から執事
月光が静かに辺りを照らす夜。
早綺は携帯を握りしめて静止していた。
こんな事して良いか分からないけど…。
けれど。それでも知りたいのだ。
真斗の過去を。
真斗の部屋を去った早綺は真っ先に自室へなだれ込むように走った。
部屋に入り、ドアに背を預けるようにして立ち尽くす。
未だに真斗の呟きが頭から離れない。
「こんな。無理やり覗き見るようなことして」
ごめんね。
心でそう続ける。
それほどに早綺は知りたいのだ。真斗が葬った記憶と、絢音という人物を。
早綺は携帯電話を握りしめ、発信ボタンを押した。
耳に近付けるとコール音が響いてきて、早綺の鼓動の音を掻き消した。
一秒、二秒と時間が過ぎる。
もう出ないか。
そう思い諦めた瞬間、携帯電話の向こうから楽しげに弾んだ声が聞こえた。