今日から執事
なんとか引きつる顔を取り繕って振り返ると、そこには少しだけ目を見開いて立っている男性がいた。
「すまんなぁ。驚いてもうたか?
いやぁ、その軽快な身のこなし!こっちが驚いてもうたわ」
にこにこと形容するのに相応しい笑顔で声を上げて笑っているその男性。
いや、正しくは喜んでいると言った方が正しいか。
「あの、失礼ですけど…」
「あ、俺か?俺は神嵜陸ゆうねん。さっきチーフから紹介あったやろ?」
言われて、そういえばチーフがそんな名前を言っていたな、と思い出した。
となれば、この人はこれから真斗の上司にあたる人になる。
「挨拶遅れてすみません。桐谷真斗と…」
「あーええねん。俺そういう堅苦しいの嫌なんや。
だから俺のことも陸でええよ」
それにしても軽い人だ。
けれど、この人のこの喋り方と雰囲気で幾らか緊張は解けた。
ただ、いきなり陸とは呼べないが。
「まぁ、気が向いたら読んでや。
それよりさっさと仕事せなあかんで。今から仕事内容説明するから耳かっぽじって聞いとけや」
真斗はさっきからあっち向いたり、こっち向いたり大変な人だな、と思いつつもその様子が妙に楽しくて、思わず見入っていた。
だが、仕事をしに来たからには全力でやらなければ、という気持ちが真斗の中で静かに闘志を燃やし始めていた。
神嵜は真斗と同じ燕尾服の内ポケットから紺色の手帳を取り出し開いた。だが、一向に話しだそうとしない神嵜に疑心を覚えた真斗が
「神嵜先輩?」
と声をかけると、神嵜は無言で手帳を差し出してきた。