今日から執事
『桐谷はそれから暫くは家族にさえも口を閉ざしていたみたい。けれど時が経つにつれて傷は癒えていった。次第に笑顔を見せるようになったわ』
立ち直るまでに一体どのくらいの年月を要したのだろう。
全く想像がつかなかった。
アンの音声はそこで途切れて、早綺はただ闇色の画面を見つめる。
こうしていると、自分が闇に呑まれてしまいそうで、怖い。
『そうだ、それから』
さらに声を落としたアンがいう。
『トラックの事故のとき、泣き叫ぶ桐谷が持っていたものがあるの』
持っていたもの…。
アンの言葉を心で反芻する。
『ネックレスなんだけどね、誰が何を訊いても、それについて何も答えなかったらしいの。
毎日身につけ、人が触れるのを嫌がった。
…あたしね、ネックレスについても調べてみたのよ…』
アンの声が遠のいていく。
手が自然と首もとにのびた。