今日から執事
父親の話を要約すると、こうだ。
樫原財閥の会長と仲の良い父親は、以前飲みに行った時に自分の息子がバイトを探していることを会長に言った。
すると会長に夏休みの間だけのバイトなら紹介してやる、と言われ、紹介されたのが先程の執事という訳だ。
話は解った。
解ったが、筑夜山と言えば、真斗達の家から電車とバスを乗り継いで片道二時間半はかかる。
そんなに遠い所に俺がたかがバイトの為だけに行くと思うか?
馬鹿馬鹿しいといった様子で真斗が呟くと、今まで岬と騒いでいた父親が急に真顔になり、こちらに近付いてくる。
そして、真斗の肩に手を置き驚くべき言葉を放った。
「父さんが真斗に変わって契約したから今更取り消しは無理だと思うよ」
「…は?」
「いや、だから。夏休み入ったら直ぐに働きに行かせますって言ったんだよね。
向こうもそれで納得してる筈だから、取り消しは出来ません」
最後の言葉は父親なりに可愛く言ったつもりらしいが、真斗は聞いていなかった。
数秒の沈黙の後、
「こんの、バカ親父がぁ!!」
という叫び声が桐谷家に響いたのは言うまでもなかった。