今日から執事
白を基調とした部屋の片隅にある、天蓋つきのベッドに身を投げ早綺は吐息を漏らす。
自分が嫌で仕方がなかった。
もう過ぎた事であるにも関わらず、うじうじと昴の言葉を何度も頭で反芻して、結果的にそれが己を苦しめる。
分かってはいるが、どうしても考えざるを得なかった。
私に近付いてくる人達は、みんな、お金目当て?
にわかには信じ難い。
信じたくないと、本心が拒否するも虚しく、早綺の心では疑心が芽生えていた。
希望と疑心が同じ場所に巣くっている。
一一コンコン。
不意にドアをノックする音が部屋に響いた。
早綺はびくりと身体を揺らし、慌ててベッドから立ち上がった。
「俺です。…真斗です」
程なくして早綺の耳をついたのは、真斗の気遣わし気な声。
今は真斗に会いたくない。
そういって今日までも真斗を遠ざけてきた。
今、真斗に会えばきっと酷い事を口走ってしまう。
その光景が目に浮かぶから余計怖いのだ。
「入りますよ」
待って、という隙も与えずにノブを捻る音が聞こえた。
早綺はその場に身を強ばらせて、棒立ちになっていた。