今日から執事
ドアの前に立って、一度深呼吸をする。
ここまで力むことは無いのだが、真斗には今日まで早綺に遠ざけられてきたという事実がある。
そのため自然と力が入ってしまうのだ。
真斗がここで介入しても何も変わらないのかも知れない。だが、早綺がいつ塞ぎ込んでいた心を晒してくれるかも分からないのに、大人しくじっとしている事など出来はしなかった。
もどかしいこの気持ちをなんと表現すればよいものか。
ノックをしようと空中で構えている手に力が入りすぎているのに気付き、もう一度深呼吸をして身体を緩める。
一一コンコン。
真斗の緊張をよそに軽快に響いた音の不自然さが否めない。
中から反応がないので呼びかけてみると、部屋の中で息を飲む気配がした。
それほどに、落ち込んでいるのだろうか。
声をかけただけで、怯えてしまうほどに。
その答えを知るために、そして早綺の心を紐解くために真斗はこうして、此処にいるのだ。
「入りますよ」
早綺からの応答がないと分かると、真斗はすぐさまノブに手をかけて一気に捻った。
きっと、こうでもしなければ早綺はドアを開けてくれない。
今日までは十分待った。
けれど、もう待つことは出来ない。