今日から執事
目を見開いて真斗を凝視していると、視線が重なった。
ぽかんとしている早綺とは正反対に、真斗の表情は真剣そのものである。
ふわりと苦笑を漏らした真斗は、視線は決して外さずにもう一度言う。
「…もっと俺を頼って欲しいってこと」
呆れながらも、ゆっくりと音を紡ぐ真斗は先刻とは打って変わって、瞳に優しい色を湛えている。
声音も今までの厳しさは全く無く、有るのは泣きたくなるほどに優しい、真斗の想い。
それだけだった。
「俺、悔しかったんです。早綺お嬢様が自分を頼って下さらなかったことが。
そして塞ぎ込んでいる早綺お嬢様を見るのはもっと悔しくて、辛かった…」
そうして真斗は苦しげに顔を歪めた。
その顔を見て、早綺は呼吸がしにくくなるのを感じた。
自分の行動がこれほど真斗を苦しめていたなど、欠片も気付かなかった。
「真斗」
「はい」
自分でも消え入りそうな声だと思ったのに、真斗は聞き逃さないでくれた。
それだけで嬉しくて、自然と笑みが零れる。
「一一聞いてくれる?私の話」
返ってきたのは、形のあるものではない。
言葉などいらない。
そう思った。
真斗の真っ直ぐな微笑みを受け止めたいと思った。