今日から執事


「やはり無自覚だったのですね。早綺お嬢様は無意識のうちに新崎昴を求め、追いかけていた。
心の寄りどころだったのでしょう?」


そうだったのだろうか?
果たして、自分は昴兄様を心の寄りどころにしていたのだろうか。


分からない。分かりたくない。

真斗の声が頭で何度も繰り返される。


「俺はお金目当てで早綺お嬢様に近付いた訳ではありません。
確かに最初はただのバイトとして、この屋敷に来ました。
けれど今は、お金目当てなどとは断じて違う」


突然話し始める真斗。

早綺の周りで状況が変化し過ぎていて、最早脳の情報整理が追いつかない。

だが、それでも、真斗の真剣な気持ちは伝わってくる。

強い意志を孕んだ瞳は早綺を絡めとって離さない。
言葉を失い、その場に立ち尽くす。


「次は何処にするのですか?」


唐突に放たれる音。
訳が分からず真斗を見つめていると、緊張した面持ちの真斗の瞳が揺れる。

不安げに、寂しげに。


「どこって…何が?」

「寄りどころですよ。心の本音をさらけ出すことが出来る場所」


どうしてこんな事を聞くのだろう。

どうしてこんな表情をするのだろう。

いくら問い掛けても、視線をさまよわせても、答えはでなかった。



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