今日から執事
燕尾服と共に
屋敷内に足を踏み入れると、そこは別世界だった。
いや、正確にはこの玄関に辿り着く前に既に別世界であった。
真斗は思う。
おかしいだろう?と。
まず、屋敷の門がとてつもなくデカい。
高さもあれば、幅もかなりある。
そして次に、庭が広い。
東京ドーム一個分は軽くあるのではないか、と疑ってしまうほど広い。
おまけに、庭には鮮やかな花や木が植えてあり、そのどれもが細部まで手が施してあるのが判る。挙げ句の果てには噴水まであるのだ。
第三にとにかく沢山歩く。
普通の家なら、門から玄関まで数歩から数十歩といったところだろうが、この屋敷は何十分も歩く。
三十分程歩いた頃にやっと屋敷の玄関をはっきり認識出来るようになるのだ。
他にも片っ端から挙げていけば言い尽くせないほどあるだろうが、それをする根気が真斗には無かった。
改めて屋敷内を見るが、真斗にはもう突っ込む気力が無くなりかけていた。
扉の横にある二体の甲冑、どこかの有名な画家が書いたのであろう絵画に、頭上には煌びやかに輝くシャンデリア。
それ以外にも目につくものは沢山あった。
「桐谷さん。まずは今日から貴方が寝泊まりするお部屋にご案内しますね」
視線をさまよわせて呆然としている真斗を現実世界に引き戻すように声をかけた松山は、真斗に自分の後を付いてくるように促した。
住み込みで働くことは、昨夜父親から聞かされていた真斗だったのでもう驚くことはなかった。
松山の後ろについて二階に繋がる階段を上がる。
そして二階がこれまた凄かった。
真斗の家の二階が、部屋が4部屋あるのに対し、ここには一見しただけで15部屋以上あるのが見て取れる。
それも一部屋一部屋がかなり広いのが15部屋以上、だ。