今日から執事







「絢音!!」


布の擦れる音と自分の焦りに満ちた声と共に目を覚ました真斗は、全身が汗でびっしょりと濡れていることに気がつき、眉をひそめた。

服や髪の毛が肌にくっついていて気持ちが悪い。


真斗は頭を抱える。


またこの夢だ。


あの日の光景は今までも夢となり真斗を苦しめていた。

だが、ここまで酷いのは今まで一度も無かった。


「絢音、ごめん……」


謝ったところで絢音が戻ってくるわけではない。
それでも、真斗は謝るしかないのだ。

それしか出来ないのだから。


水気を帯びた前髪をかき上げ、瞼を閉じる。

ぼんやりと昼間の映像が浮かび上がってきた。


真斗の隣で無垢な笑顔を向けてくる少女。

あれは間違いなく絢音だった。


「お前は俺を恨んでいるはずだろう?」


それ以外に何がある。
彼女の未来を奪った自分を恨まない人がいるだろうか。

だが。


そこまで考えて真斗は瞼を開けた。


それなら今日の絢音の微笑みはどういう意味だろうか。

真斗の罪の意識が見せた幻覚だとでもいうのか。


疑問は幾らでもでてくる。

けれど、その全ての答えを授けてくれる人はいない。

答えが、見つからない。




鳥の囀りも聞こえない、蝉の鳴き声さえも聞こえないこの無音の部屋で真斗はもう一度頭を抱えた。



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