戻れない道
一週間も寝てたらしい。

早く家に帰らなくては・・・。

そこまで考えて妖精のような死神の顔を思い出した。

リアルにあの時の状況が蘇る。

私の体は死んで、別の体に・・・・・・。

「今、先生が来るからな。大丈夫か?」

年配の男の人の方が私に話しかけてきた。

「由衣?」

確認するように私の顔を覗き込み、何か名前を呼んだ。

由衣?

そう言えば、さっきも誰かが由衣って呼んでいたような気がする。

私を知っているようなこの人達が呼ぶ名前。

あの出来事が本当なのだとしたら、この体の名前が由衣・・・なのだろうか。

「大丈夫・・・です。あの・・・鏡があったら見せてくれませんか?」

私の発言に怪訝な顔をしながら、青年が棚の上にあった鏡を差し出した。

「あ、りがとう」

受け取る為に、布団に入っていた右腕を出す。

「・・・・・・っ」

ちょっと息を飲んだ。

白くて細い長い指。

私の手は、こんなに白くも長くも・・・・無かった・・・よね。

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