Ray ~破滅~
自分の部屋へ入ると、すぐに凛雄に電話を掛けた。

光野礼という人間は、間違いなくそうするだろうと思ったからだ。

もちろんそれは、俺の中にだけ存在する名も無き俺の行動とは違っていたけど。


『もしもし』


やはり、凛雄は電話に出た。

あまり機嫌は良さそうではなかったけれど、俺にそれをぶつけようとする様子はなかった。

こいつはおそらく、俺に嫌われたくないのだろう。

俺だけは敵に回したくないと、そう思っているんだ。

でも、そんなこと考えるのは無意味だ。

俺の中には、好きという感情も嫌いという感情そもそも存在しないのだから。


俺は、そんなバカな弟に言う。


「もしもし、凛雄。俺だけど、これから塾なんだろ。間に合わなくなるぞ」


伝えるべきことを、そのまま伝えた。

だけどちゃんと、言い方に工夫をするのは忘れなかった。

人が普通、『優しい』と感じる口調で言ったんだ。

責めるようにではなく、『優しく』教えるように。

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