Ray ~破滅~

『分かってるよ。分かってて、わざとやってるんだ』


凛雄はそう言い返してきた。

でも、その言葉の意味はさっぱりだった。

塾に行かないといけないのは分かっているらしい。

だけど、それなのに行かないと言うんだ。


理解不能だった。

しかし、そこでなぜかと訊くのはまだ浅い。

正直、理解はできなかったけれど俺は理解したふりをした。

そうしたほうが相手は俺にいいイメージを持つらしい。

だから俺は分かったふりをして、言う。


「あんまり母さん困らせるなよ。今も、凛雄が帰ってくるの玄関でずっと待ってるんだ」


その言葉を選んだのは、玄関で待っている母さんの気持ちを考えたからなどでは決してない。

だけど俺は、人間の常識や考えについて頭の中に刻み込んである。

それが決して本当の俺のものとなることはないが、俺を演じる上ではかなり重要なものだった。

そういうものを物差しにして、俺は適切な言葉を選び、適切な口調で表す。

それはまるで、計算式のように。
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