短編オムニバス「平和への言葉」
第二話 『手』
――あと少し、あと少しだ! あの建物に入れば、そこで……!

俺は、自分を奮い立たせるように、そう言い聞かせ、足を前に踏み出す。

……だが、やはり勇気が出ず、また足を引っ込めた。

もう、何度これを繰り返しただろう。

決められた時間は、まだある。

だが、この調子ではとてもたどり着けるとは思えなかった。

そんな訳にはいかない。

たくさんの同志たちが俺の行動を待っている。

同じ行動を起こすはずの同志たちに、俺だけできなかった、じゃすまされない。

俺は、ポケットの中で握りしめていた小さなボタンを、さらにぎゅっと握りなおした。



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