短編オムニバス「平和への言葉」
「大丈夫? どこに行くの?」

突然、腰の辺りから可愛らしい声がして、俺はびっくりして飛び退いてしまった。

「うわっ! びっくりした!」

すっとんきょうな声を上げる。

俺の驚きように、声の主は高らかな笑い声をあげた。

「そんなにびっくりしないで~。こっちがおどろいちゃったっ」

くるくるした大きな瞳の、小さな女の子だった。
10才くらいだろうか?

「おじさん、どこに行くの?」

「お、おじさんって……」

俺、まだ20代なんだけどな……。
まぁ、これくらいの子どもにしてみれば、充分おじさんか。

だが、俺が気落ちしたのを見て取ったのか、女の子はぺろっと下を出すと、

「ごめんね、おにいさん。どこ行くの?」

と、訂正してくれた。

行き先は、告げるべきではなかったのだろうが、女の子の真っ直ぐな瞳に、俺は何故か逆らえず、目の前にそびえる高い建物を指さした。

「あそこ」

そこまでは、この信号をわたれば、すぐに行ける。

だが、今の俺には近くて遠い場所だった。


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