短編オムニバス「平和への言葉」
家につくまでも、彼は葛藤を繰り返していた。

だが、はらわたが煮えくりかえるほどの怒りをおぼえた後、彼はボタンのカバーを外していたので、今も想い出すと怒りがこみ上げてくる。
その瞬間には、何のためらいもなくボタンを押せそうだ。

だが、理性が彼を押しとどめる。

そうやって、彼は葛藤を繰り返していたのだ。

家の玄関を開けると、使用人が彼を迎え入れた。

カバンを預け、上着を脱ぎながら居間に入る。

そこには、母親を亡くした為に、、乳母に抱かれた赤ん坊が彼を待っていた。

「お帰りなさいませ」

乳母はそう言うと、彼の腕に赤ん坊を預ける。

もう生後半年もたつと、腕にかかる重みは、ずっしりとしていた。

産まれた直後は、あんなに軽かったのにな……。

その重みを、喜びと共に彼は受け止めた。



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