短編オムニバス「平和への言葉」
あたしは、真っ赤になったまま、部屋に立ち尽くしていた。

心臓がドキドキする。

でもそれは、イヤなドキドキじゃなかった。

一言言うのは勇気がいったけど、それ以上に誇らしさと嬉しさがたくさんたくさん胸にこみ上げてきてた。

「ありがとう」

もう一回、一人で呟いてみる。

なんだか、心がほかほかしてきた。


それから、あたしは他の使用人にも、家庭教師にも、いっぱいいっぱい、「ありがとう」を言うようにした。

あたしが「ありがとう」を言うたびに、言われた相手は嬉しそうな笑顔を見せる。

「ありがとう」は、あたしにとって魔法の言葉だった。



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