世界の説明書
その時だった、急に何かにぶつかったかのように名子がケン君から離れ車道に倒れこんだ。


「あ、、」 


と明子が声にならない息を呑むと、 次の瞬間、

ギャギャギャギャギャ、、、

男子高校生二人が乗っている赤色のバイクが、いきなり車道に飛び出してきた小さな女の子を避けようと必死に急ブレーキを踏む

ガリガリアリガリバリガリガリガリバリバリ 

間に合わない、間に合わない、もう駄目だ、と叫ぶようなタイヤと道路の嘆きの叫びが静かな住宅街にこだました。

ガッシャーン   ゾス

バイクから投げ飛ばされた一人の男子校生が名子の上に落ちてきた。

「あ、あ、あ、びゃあああああ。」 けたたましい名子の泣き声が世界を揺らした。


 震える足を必死に奮い立たせ明子が名子に駆け寄った。そして、泣き叫ぶ名子を抱き寄せると生暖かい液体が明子の腕を濡らした。
 名子は頭から大量に出血していた。黄色い幼稚園の制服がみるみる赤く染まっていく。それは黄色と混ざり茶色の様にも、黒色の様にも見えた。

 バイクの衝突はどうにか避けられたものの、名子は既に泣き声すら上げていなかった。バイクから落ちてきた高校生も右足から酷く出血していたが自力で立ち上がると、

「ちくしょう、超痛てえよ。マジで、俺達のせいじゃないからな、いきなりとびだしてくるなんて聞いてねえよ、親ならしっかり見てろよ、おい、たけし、お、おい、大丈夫か、おい大丈夫か、おい、おいってば」

 たけしとよばれたもう一人の運転していた高校生はバイクごと電信柱に突っ込んだようだ。電信柱と、彼が倒れている辺りには名子の倍ほどの血が飛び散っていた。友達が幾ら呼びかけても、全く反応が無い。半開きになった彼の白目が恨めしそうに空を見上げていた。
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