蕾
社長室に居たのは30分くらいだと思う。
それなのに、社長室を出てオフィスに戻る私の体は疲労感たっぷりだった。
「はぁ……」
自分のフロアに降り立った瞬間に、深くため息をついてしまう。
そりゃ、そうだろう。
あんな話をされたら、私だって悩んでしまうわ。
そう、社長が話した事とは【昇進】の話。
それだけなら嬉しいのだが、そのポストはなんと佐々木先輩のポスト。
先輩はもう今季締めでの辞表を提出したらしい。
簡単な話、そこに就いてくれないかという有り難いお話なのだけど……
タイミングが悪い。
佐々木先輩からのお話と、昇進の話……
どちらも悪い話じゃないと思う。
私ももうすぐ28歳になる。
ここら辺が、最後の勝負所になるんじゃないかなって思うのよね。
だから、余計慎重になるの。
1週間後にまたしても呼ばれている社長室。
もちろん返答しなければならないからだ。
「いい返事を待ってるよ」
そう言った社長の声が、頭の中をぐるぐると回っていた。
デスクに戻った私は、またしてもたまっている書類を見て頭が痛くなった。
そんな時、メールの受信を知らせる画面が出る。
【至急案件】
【梓さん疲れすぎですよ。綺麗な顔が台無しです。たまには、俺にも悩み事を話してください。】
可愛い柴犬からのメール。
一気に心が緩んでいくのがわかる。
ただ、これは私の問題だから……
【ありがとう。そのうち話すわ】
そうメールを返信すると、涼を見た。
メールを見た涼は、なんだか淋しそうな顔をしながら私を見ていた気がする。
ごめんね、涼。
もう少しで落ち着くから、あと一週間だけ待っててね。