社長室に居たのは30分くらいだと思う。

それなのに、社長室を出てオフィスに戻る私の体は疲労感たっぷりだった。


「はぁ……」


自分のフロアに降り立った瞬間に、深くため息をついてしまう。


そりゃ、そうだろう。
あんな話をされたら、私だって悩んでしまうわ。

そう、社長が話した事とは【昇進】の話。

それだけなら嬉しいのだが、そのポストはなんと佐々木先輩のポスト。

先輩はもう今季締めでの辞表を提出したらしい。

簡単な話、そこに就いてくれないかという有り難いお話なのだけど……


タイミングが悪い。


佐々木先輩からのお話と、昇進の話……

どちらも悪い話じゃないと思う。

私ももうすぐ28歳になる。

ここら辺が、最後の勝負所になるんじゃないかなって思うのよね。


だから、余計慎重になるの。


1週間後にまたしても呼ばれている社長室。

もちろん返答しなければならないからだ。


「いい返事を待ってるよ」


そう言った社長の声が、頭の中をぐるぐると回っていた。


デスクに戻った私は、またしてもたまっている書類を見て頭が痛くなった。

そんな時、メールの受信を知らせる画面が出る。


【至急案件】

【梓さん疲れすぎですよ。綺麗な顔が台無しです。たまには、俺にも悩み事を話してください。】


可愛い柴犬からのメール。

一気に心が緩んでいくのがわかる。


ただ、これは私の問題だから……


【ありがとう。そのうち話すわ】


そうメールを返信すると、涼を見た。

メールを見た涼は、なんだか淋しそうな顔をしながら私を見ていた気がする。


ごめんね、涼。


もう少しで落ち着くから、あと一週間だけ待っててね。

< 115 / 138 >

この作品をシェア

pagetop