蕾
私はゆっくりとカウンターから降りると、優しい作り笑顔で涼に尋ねた。
「やだ、涼じゃない。えっと…そちらは彼女さん?」
「あ……いや…」
口ごもる涼。
何で違うって言わないの?
「そろそろ、帰ろうと思っていたの。お2人はごゆっくりね」
かろうじて、笑顔で言いきった。
多分、だいぶ引きつって居たけどね。
私は素早くお勘定を済ますと、カバンを持ち逃げるようにしてお店を出る。
お店を出てすぐの角を曲がると、我慢していた涙が一気に溢れ出すのを、もう止められなかった。
神様なんて居ない!!!
涙が止まらないよ。
昨日あんなに泣いたのに……
今日、始めて見た涼の顔。
涼はもう平気なんだね?
もう、彼女が出来ちゃったんだ。
カッコイイもんね。
全部自分がした事なのに、後悔の言葉ばかりが出てくる。
道行くサラリーマンは、フラフラと泣きながら歩く私をジロジロ見ている。
そんな事も気にならない位、私はどうでも良くなっていた。