MADE IN BLUE -ソラ・ニ・ナリタイ-
俺は事務所の帰り、ふと目に入ったペットショップで美しい熱帯魚を買った。
ベタ・スプレンデンス。
ややこしい名前のそいつは今、美しい妹の手でワイングラスの中に放たれた。
「綺麗ね」
ワイングラスをリビングのローテーブルに置いて、リナはうっとりと見惚れていた。
「コレクターもいるらしい。レアな品種もあるみたいだから」
「へぇ。でもどうしたの?」
「プレゼント。去年のクリスマスも何もあげなかったから」
リナは嬉しそうに笑った。
空が好きなくせに。
水の中でしか生きれない魚に愛しげな目をする。
リナはいつもパラドックスの中にいる。
外界から切り離された存在だ。
例えるならばラプンツェル。
その長い髪は最後、誰のために垂らされるのだろう。
「名前でもつけて可愛がってやってくれ」
「じゃあフーリッシュハートにしよう」
楽しそうなリナの声を聞きながら、俺は窓の内側に飾られたおびただしい数のグレートフルデッドベアのぬいぐるみを眺めた。
リキッドブルー、ケイシー・ジョーンズ、キャンディマン、そしてフーリッシュハート。
それらは全てこのクマのぬいぐるみの名前だ。
「いいんじゃない?」
少し笑ってそう言った後、俺は煙草に火を点けた。