いばら姫




"CheaーRuu"のヴォーカル"灰谷"は
ただ無言で座っている


…俺はこの場から動く気は無かったし
アズが出てくる迄
…別に待っていなくたって
構わない

―― こっちにだって
そんな義理は無い


『―…ねぇ そこの人 』



動き出そうとした途端


―――髪は黒
上半身は裸で
インディゴのシルバーネックレス

ジーンズにGAZのブーツ

灰色の目が
こちらを射抜く様に見た


『… 邪魔しようとしたら
俺、貴方の事 許さないよ』


「…皆して酷いな
多勢に無勢だろ これ
俺だけ悪者か? 」


『――…それは少し、俺も思うけどね 』



…… こいつだけ
少し周りの奴と、雰囲気が違う

多分、高校生位
そのせいもあるかもしれないが



「…君 もしかして
アズの身内か何かか…?」

『 …何で? 』


「 いや… 」


―――― 別に顔が似ているとか
そういう訳ではないけど
ヴォーカルが持つ空気なのか?


『…とにかく俺も
今は、青山さんとアズの再会を
邪魔する奴は
誰であろうと容赦する気は無いんだ』


「…邪魔する気、満々なんだけどね
こっちは」


俺はニヤリと笑って
"灰谷"に睨み返す


『……そしたら俺 アズを殺すよ』







「―――― 何言ってんだ お前」


『…貴方が
一番失って辛いのは
アズだろ

自分が怪我したり、殴られたって
アズさえ手に入れば
何の報復にも感じないだろうし』


「……おまえ、
…おかしいんじゃないのか…?」




――― それがまるで褒め言葉の様に
"灰谷"は、喉を反らして笑う


再び見返した目は
"これは本気だ"と
そう言っていて




――― 自分は

いつも住んでいる世界とは
別の場所に
足を突っ込んでしまったのだと

この瞬間
初めて気が付いた








< 106 / 752 >

この作品をシェア

pagetop