いばら姫


「よく入ったな ウィッグの中に」

「え 何が? 」

「長いだろ 髪 」

「切った 」


「―――切ったのか?!」

「 うん 」


…何となく、ショートが想像つかない
ネットでの『 Az 』も
殆どリアルと変わらない髪型だったし…

…心境の変化?とか
また聞くからいけないんだよな…

とにかく
数カ月ぶりに会って
前みたいに喧嘩する事は
絶対に避けたかった




10分もすると
バスの中は、満員になる

少し遅れ気味に
慌ててやって来た
スタッフらしきお姉さんが
点呼を取る


「ナカムラヨシオさーん」

「はい」

「ナカムラ、ユキさーん」

「はい!」



それに返事をしたのはアズ

ひとしきりバス内を見回したお姉さんは
アズの顔を見つけ

知り合いらしく
お互い笑いながら、お辞儀して
挨拶を交わしていた


「"ナカムラ ユキ"さんなんだ」
「うん 」

アズは愉快そうに
両手で口を覆って、笑う

そして"イテ"と
小さく叫んだ


「何した?! 」

「笑ったら、唇切れた」

「あーあ 見せてみ」

「舐めとけば治る」

「乾いて余計割れるって
リップとか無いのか」

「そんな、こ洒落た物は無い。」

「……ティッシュは」

「ある 」

「 貸せ 」


アズはポケットから
道で貰ったらしき
ティッシュを取り出し
俺はそれを奪い、唇を抑える

アズの膝にかけた
ダウンのポケットに腕を伸ばして
薬用リップを出した


右手でアズの顎を押さえて
リップを口にくわえ、キャップを外す


「しみ゛る」

「これやるから持っとけ」

「 はい 」



…… 手間のかかる女だな ホント


落とすまでの"親切"は"攻略法"だから
色々とやってやったりするけど

その後は別に、
持続させたい訳じゃなかったから
その場しのぎの言葉をかけて
やんわり離れて行くのが定石


…基本
こういうのは苦手な筈なのに
アズにかかる手間は
逆に嬉しいのは
何でなんだろうな…







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