いばら姫
・告白の行方
今年の夏の、感想は一つ
『やっぱり東京は暑かった』
「 …あそこは
人間の住む所じゃないな 」
メニューを見つつ
美味そうに林檎ハイを飲んでいる西が
俺の台詞を聞き、声を挙げて笑う
「まあなあ〜
俺は修学旅行で行ったきりだから
よくわからんけど
熱中症でどうのニュースでやってたな
…それより淳さ
デートしに行くっつってたけど
随分早くね?帰って来るの
あの『いちご煮ちゃん』と何かあったか?
ケンカしたとかよ 」
「 喧嘩は西の所だろうがよ
…夕べ、
いきなりアキが家に来て驚いた」
西は俺のグラスにビールを注ぎながら
『はぁ』と小さく、ため息をつく
「…まぁ俺にしては随分長く
仕事、続いた方と思うよ…?
あの海沿いのファミレスで
バイトから正社員になって
…結局、新しい店長と
ソリが合わなくてやめちまって
そこらからかなあ
アキとケンカが多くなったの
…とりあえず今は
市場で工場内運搬してるけど
接客好きなんだって
あらためて思ったりもした 」
「 その新しい店長になってから
ファミレス行ってみたけど
あんまり感じ良く無かったね
西は人好きされるから
よっぽどだったんだと思った 」
「 …アキにフォローありがとな
今朝、電話来てさ
自分も仕事が忙しくて頑張ってる時期に
俺がアッサリやめたってんで
腹たったみたいでさ
…謝られたよ
でも、俺も悪い!
これから先、いろんな人間がいるんだ
あれっ位でキレてたらやって行けんもん 」
居酒屋の中は
まだ夏休み中の学生で埋まっていて
随分流行りが変わって来たなと思う
女のメイクは
ニューヨークセレブ発祥の
『強気アイライン』
やり過ぎて、パンダみたいな子も多い
足元はクロークと呼ばれる
先の丸まったサンダル
女はミュール系が好みな俺としては
見ていてあんまり面白くない
――― そして、もう一個
猫も杓子も状態で蔓延している
長い、色の抜けたウェーブ髪に、
白や青系統のワンピース。