いばら姫





駐車場に車を停め

その公園の生け垣を横に進むと
視界が開けた

「 随分広いな 」


まだ笑いの余韻によろけるアズの手を
自然に繋いで
アスファルトを歩く

真正面には
ビルの山と、大きな噴水

白い冬薔薇が
辺り一面に咲いていた



鉄柵に
ハンバーガーの入っている紙袋を
片手に持ちながら、手をついて
アズがその花の名前の看板を
覗き込む







――― 携帯は
電話機能ばかりで
テレビを見たりも、サイトを開いたりも
あまりしない

だけどその光景が綺麗で


つい自然に、カメラを向けてしまった



「 あ 」


微かなシャッター音に気付いて
アズが振り返る


「…… あ 」



――― ごめん


そう言おうと思ったのに

アズは腕を後ろ手に組んで
小首を傾げ、レンズ越しに笑った



そのまま俺は

――― 紙袋を振りながら
大股で歩くアズに
カメラを向けたまま進む



――モードはビデオに変わっていた



噴水の縁に座ると
最初は一羽だった筈の鳩が
大挙して舞い降りて来る


『あげてもいい?』

アズは袋を拡げて
俺の分のポテトを指差す


『 いいよ 』



俺の携帯は――

当時は最新式で買ったんだけど
もう誰も使っていない様な、古い機種で

カメラ機能も、レンズの性能も
今最新の物とは天と地だし
ビデオ撮影分数も
最大30分

でもそれが逆に、空間の粒を粗くして
古い映画の一場面のような
少し懐かしい景色になった







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