いばら姫



――― この携帯で、アズと初めて話した


好きだと伝えたのも

喧嘩したのも



その携帯で
今、アズを映してる

顔も知らなかった彼女を




俺の後ろから
少し狭間で温められた
ビル風が吹く



服に散らばったポテトの粉

アズは噴水の縁から立ち上がり
銀の四角い三つボタンを外して
風にたなびく様にコートを拡げた


―――― 羽音を立て
青い空へと帰る鳩



片手をポケットに入れ
髪を抑えながら、
俯き微笑むアズの足元には

"まだ何か無いか"と諦め切れず
残っている鳩達



『…また今度ね。 』



その声と一緒に
ビデオの撮影時間も、切れてしまった







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