いばら姫




「あれか
アズはもしかして
『働くおじさんフェチ』か?」


「うお!
…否定出来ないかもしれない…」


「ちょっと体冷えたか

――― 何もしないから
あんまり警戒するな
こっち来い」



アズはそれで少しだけ
体の力を緩め、俺は体を離し
白い指先をダウンのポケットに
突っ込ませた



「……… 私  淳が怖いんだよ…」






「…酷い事言うからな …怒るし」

「…クウヤも酷い事いうし、怒るよ…」



「…あの人と俺のは
種類が違うでしょ

――― あの人のは
お前が可愛くて、からかったり
心配して言う言葉なんだろ

俺のは…
お前の事が欲しくて
自分の我をぶつけてるだけだから…」




「…誰も
淳みたいな事言わない

今『Azurite』は売れてるから
周りには、褒め言葉しか無い



だから…
…芸能界には
魅力的な人が沢山いてとか…
こだわり過ぎとか

言われる度に、胸が痛いけど
本当にそうだよねとも…
ちゃんと思うの…



―――リュウジね

私に会わなくても、
絶対デビューしてたし

新しい仲間と
灰谷君みたいな、
凄いヴォーカリストにも会って
私に関わってる必要
全然ないんだもん… 」




「……あれは


ヤキモチだから、気にするな

青山さんは、
―――いい男だと思うよ」




「……… 会った の…? 」


「…俺が勝手に話し掛けただけ

コンテストの日に
我慢しきれなくて
『いいベースですね』って声かけた

―― そしたら 」



「…うん 」



「………『宝物ですよ』
そう、言ってたぞ 」





――― アズの瞳が途端に崩れて

広い青空と
少しキンとした冬の空気の下で
涙が落ちて行く足元を見詰めた






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