いばら姫


―― アキは元々
俺がナンパして知り合った女で

付き合うなんて話は無しの
『ただ、そういう関係』が過去にあった



西は、その頃を知っている

けれど、
アキと去年から付き合い始め
きちんと仕事に着き
西なりにアキを大事にしている様子だ


『俺とアキがそういう関係だった事
気になった事ないのか』

そう聞こうとした事もあったけど
それは野暮だし、やめた――



明日、アキは仕事が早いというので
三人揃って居酒屋を後にする


飲む予定で出掛けて来たから
皆、徒歩

商店街の途中で
俺はタクシーを二台呼んで
一台に、二人を乗せた


「何か、悪いな」


西がそう言って
でもこういうのは何時もの事だから
今更遠慮する事も無いのにと少し思う

俺は笑って手を振り
もう一台に乗り込もうとしたけど


「 西 」

「んあ? 」

「………記憶戻ったきっかけって
なんだった? 」


「え…… えーーと…
一週間位して、復帰して

スティックの音とか、皆の声とか
氷のニオイとか、空気嗅いだ時
突然『 あ 』って

んでキャプテンに
『俺、救急車で運ばれました?』
っつったら
『覚えてなかったのかよ!』みたいな…」


「…パスワードね 」


「え? 」

「いや、こっちの事。悪いね
じゃ また。」

「……なあ マジで何かあっ…」


言い切らないうちに
タクシーのドアは閉まり
俺も二台目のタクシーに乗った






―――― あの海でキスをして
その細い体を抱きしめた俺を
アズは両手で、制止した


……彼女が今芸能人として、
活躍しているのは知っていたし
周りを気にしても当然だけど


こんな所に誰もいない
そんなの関係ねえだろとも思ったし
直に、そう言った

俺は結局、魔法にかかったみたいに
目の前のその姿に夢中になっていて――


次の言葉を吐かれた時
やっと冷や水をかけられたみたいに
冷静に なったんだ







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