いばら姫











――― エレベーターに乗り
お姉さんに見つからない様
こっそり、フロントを通る


ビルあかりの夜空の下

エントランス前を巡回する
空車のタクシーを捕まえ
灰谷と二人で乗った



手には

じっちゃの

『 元気か 』

『おまえの宣伝していた
テレビを買ったよ』

そんな声が聞こえ始めてから

床にしゃがみ込み、泣き伏して
こちらを見る事も出来なくなった
女の手から

抜く様に持って来た
俺の携帯―――







『…―――

"東京出身の、
生まれながらのお姫様"みたいな
経歴を、デビュー当時から
うたってるけど

あの女優、
"小松原メイコ"は
阿尾森県、早瀬の人なんだ』



「……な…?!うちの近所だべな!」



『…反撃出来る弱みや嘘を
探って行くうちに

年齢を恐ろしい程、詐称している事や

上京して来る時
近所に住む"岡田の坊ちゃん"
岡田会長に、

全ての準備をして
貰った事がわかったんだ

…東京に出るなんてって
大反対されてたみたいだからね


だけどデビューしてからも
暫くは仕事が無くて…

岡田さんのお祖父さんが
標準語のレッスンとか
"これからは英語も出来ないと
世界に通用しないから"って
色々な先生を
彼女の元に、差し向けてくれたらしい』


「………な
何して、じっちゃは… 」



『…岡田会長は若い頃
俳優になりたかったらしいね
――だけど、跡取りだから… 』



「―― そんな事…一度も…」



『…彼女にとっては
岡田会長は
まさにプリティ・ウーマンの
ルイスって訳



―― 以前の彼女は
あんな人じゃなかったって
皆言ってる

陽気で、皆に優しくて……


ハリウッドに出たのは
B級映画だったけど
黒髪の天使の役で……

年の行ったマニアの人の中では
結構まだ、人気があるんだ…』









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