いばら姫
「…で? 灰谷よ
御礼ってのが、このカレー屋?」
『…安いけど美味いし…
…腹減って死にそう 』
「いいけどね…カレー好きだし
…アズ
キョロキョロしてないで座れ」
梅川医師に見送られ
曲がり角ですぐに入った
黄色い看板
調理場には常に、
白い湯気が立ち上っている
肉を飽くまでも拒否ってるアズには
強制的に、ほうれん草カレー
俺はビーフで
灰谷は アズと同じ
ほうれん草カレーを頼んだ
『…岡田さん 』
「 何よ 」
『……本当にありがとう 』
灰谷は俺に
ゆっくり深く、頭を下げた
「…俺なんもしてねえし
助けたのは、じっちゃ
アズ、灰皿取って」
『……そんな事ないよ
貴方の手腕がなかったら
あんなにアッサリ
事が進まなかったろうし…
…俺 岡田さんが困った時には
絶対に助けるから 』
「 淳の、手腕? 」
「灰谷。言わなくていいから」
俺の背の後ろで
内緒話をしようとしている
二人の頭を羽交い締めにして止めた
―――腹もいっぱいになり
シャッターの閉じられた商店街を
少し歩く
アーケードのあかりを抜けると
埠頭に続くらしい
人工の川
傍には公園があって
規模は小さめなものの
遊具の種類が多く、かなり凝っている
灰谷とアズがいきなり
そこへ向かって走り出した
目的は二人とも
中が螺旋階段
てっぺんから三つ、滑り台の伸びた
銀のロケットらしく
灰谷とアズが
ボブスレーのペアみたいになって
笑い声を上げながら
砂場に向かって、急降下して来た
砂を散らしてまた再び
二人はバタバタと
螺旋階段を昇る