いばら姫
「…最初、水谷との共同生活は
上手く行ってた
でもある時、水谷に誘われて
彼のやってるバンドの練習に
連れて行って貰って
歌を…歌わせてもらったの
―― そこから水谷の態度が変わって
色々あって…
私、水谷の所を出たの
私が歌を唄うと、皆、私を嫌う―――
母親も、私がテレビ見ながら
歌ったりすると
火みたいに、機嫌、悪くしてたし
―― もう、何でもいいやみたいに
少し、おかしくなってて…
お風呂に何日も、入って無かったし
少し、道で、喧嘩騒ぎとかにもなって
そこを、偶然知り合った
ベーシストの人に、助けて貰ったの…」
「……喧嘩って…
お前、女だろうが……」
それを言うとアズは、緩く笑った
「両極端なんだ
―― この見た目で小さい時は、
変な人に駐車場まで連れて行かれて
スカートめくられて、急いで逃げたり
中学卒業した後
担任の先生に、プロポーズされた事もあった
話してもいないのに
クラスの女子に、嫌われたり…
だから、少し
戦える自分が、必要だったの」
――― 『何だ それ 』
そう思う反面
それを納得する自分も居た
アズの容姿は
今まで見た"カワイイコ"の範疇を
越えていたから―――
ただ、いまひとつ要を得ないし
パズル合わせみたいな話を
それ以上聞くのが嫌で、話を切った
「…過去はどうでもいいって
前に言ったろ」
―――オフ会の途中
だけど俺はそのままアズを連れて
何処か
俺の家でもいい
とにかく、アズを自分のテリトリーに
囲み入れてしまいたくて
アズの手を掴んで、歩こうとした
――― だけど
アズはヒョイとそれから逃げ
ムキになった俺が
いくら必死に捕まえようとしても
その寸前で逃げた
女に手をあげた事なんかないし
そう育てられて来たけど
マジ入った俺は
少し真剣に、アズに向かって行って
やっとその手を捻りあげたのに
次の瞬間には
軽く背を押されて
砂浜に膝を、突いていた