いばら姫
「…淳 強いね 」
――― 砂浜に転ばされた状態で
そんな事を言われても
何の説得力も無い。
そう言うとアズは
やっと少しだけ、微笑んで
―――その顔はまるで
初めてオンラインの中で
言葉を交わした時の、"アズ"の様で
変な目眩に一度、頭を振った
「…そのベーシストの人は私に
『歌え』って
初めて言ってくれた人なの
同じバンドの仲間も出来て
さあこれからって矢先に
そんな事があって
―― 私、そのケガのショックで
事故前後の記憶…
ずっと、忘れてたの… 」
――― 俺は砂浜に座り直して
タバコに火を着けた
そして煙を吐くと
アズに皮肉った笑いを返しながら
言葉を投げた
「……アズさ 」
「…………はい 」
「嘘はいいからさ」
「え……」
「昔か今か知らんけど
そんな話、誰が信じるよ?
―― 芸能界で新しい男でも
出来たんだろ?
ハッキリ言えばいい」
アズは
瞳を見開いて、何か言おうとしたけど
結局、やめてしまった
AKARIさんの呼び声がして
「一先ず戻ろう」と
笑ってアズを促し
戻った先には"Sero"が居て
やっぱり、
"藤木尚人"に似てるなあなんて
思いながら
全員で、握手を交わした
寿司や、AKARIさん手作りの
ご馳走を皆で食べながら
ゲーム内での馬鹿話に、花を咲かす
Hawkのリアルでの年齢以外は
結構、オンラインのキャラと
通じる雰囲気があって
だけどSeroは
オンラインの中とは違い
アズにやたらベタ付くと言う事も無く
それを言ったら
「やあ、それは別じゃない
やっぱり、オンラインだからこそ
やれる事もある訳でさ」と
穏やかに、照れ臭そうに笑った
――― そして気が付く
アズは
俺がタバコの煙を吐くと
一瞬、反応する事を