いばら姫
いきなり風呂には入れない
とにかく空気を暖める
ヒーターは勿論ついていて
台所前にある石油ストーブも動かした
「アズ!玄関つったってないで入れ!」
「…それ渡しに、来ただけだから」
「……これ何よ 」
何も書いていない
銀色のDVD
「…"教室BAROQUE"のDVD…
焼いて貰って…
当分販売されないらしいし
こっちで…やらないから…」
――唖然とする
「…… それだけの為…に…?」
「…うん…
淳、ものすごく
見たがってたし… 」
―――――― 参った
白い吐息と ――
白い雪の絡まった琥珀色の髪先と
碧に染まった、伏せた睫毛
落ちてくる水滴に濡れて
唇だけが、誘う様に紅い
アズのコートについていた雪が溶け
丸く青い透明の粒になって床に転がり
かじかんで震える 細い指先は
上下する胸元で 握られている
「…今、飲む物入れるから
こっちに…」
――― それは数秒
俺が部屋の奥に入って
バスタオルを持って来る迄の間
ゆっくり閉まる
玄関のドアの隙間
――― アズの姿は忽然と
玄関先から消えていた