いばら姫





クーラーは止めずに
少しベランダを開けた

夜風に乗って何処かから、
祭囃子が聞こえて来る


それに誘われる様な下駄の音

目の前には電線
眼下の道に、浴衣の女の子達

その向こうにはマンションがあって
男二人が、ちょっとカッコつけながら
車の横で、その二人を待ってる



天丼を床に置いたまま
暫くその光景を見詰めた





タバコに火を着けたまま
ずっと考え事をしている自分に気付く

… 別に、あいつ
青山を心配している訳じゃない


―― アズが
ベースを盗られたあいつの事を
どれだけ心配しているか
それが気になるだけ




……心配したアズが
奴に会いに行って…とか 無いよな

会いに行くのはあるか…
……アズだし


この間まで脚本とか考えてたから
すぐに思考が『物語』に行ってしまう


アズがあいつの所に行くなんて
俺個人にしてみたら
そんな脚本、裂いて破いて燃やす勢いだ


だんだん考えているうちに
頭に血が昇って、息が荒くなって
……だから普段は
なるべく考えない様にしてる



――あいつが動き出したのは
自分の中で
"アズに近付く準備"が
出来たからに違い無いんだ

その目標が
オリコン一位だったのかどうかは
定かじゃないが




――― こんなグチグチ考えるのは嫌だ

前にも一回あった様な気がする

アズが
主婦のAKARIさんと同じ時間に
離席する事や
土日は繋がない様子で
勝手に主婦か同棲してる、
男が居ると思い込んで、
やっぱり俺は、おかしくなった…



――まだそっちのが
良かったのかもしれない


同棲なら
『やめろやめろ こっち来ちゃえよw』

結婚なら、当時ならまだ
『結婚してる位言えよw
騙されたなー』位で
済んだかもしれない



…… 正直に、昔の事を話してくれて
確かにチケットは送ってくれたが
それは仲間皆にだし

ここまで連絡が無いのに
執着してる俺が
変なのかもしれないけど――






< 276 / 752 >

この作品をシェア

pagetop