いばら姫





―― 布団を上げ、閉めた筈の押し入れが
半分、開いている


ぶらりと下がった足――


…こんな話聞いてないぞと
俺まで声を挙げそうになった時
『そいつ』は喋った




『……無用心だよ岡田さん

ポストに鍵って、
入ってくれって言ってる様なもんじゃん』




―――カラリと襖が大きく開いて
半分包帯に巻かれた顔の中の
灰色の目が笑う


黒いライダースは トン、と足を付き、
もう誰かは解ったのに
体が言う事を聞かない吉田さんに
その節から先の長い指を延ばした






「…… 灰谷 … 何で… 」



『 …言ったよ
あなたが困った時は助けるって 』


「―… だってお前 怪我は… 」

灰谷は、喉を反らして笑う


『… " セット "

撮ってたのはこの部屋の隣

―― 貴方達の会話は
ハシバさんからのマイクで全部聞こえてた

貴方が携帯を弄られた以上
確実に向こうサイドが紛れ込んでるから
警戒したんだ

… 現にこの部屋、
盗聴器仕掛けられてたよ 』



「… は?! 」


『 …もう外したから平気 』




――― この部屋に来たのなんて…




『…これ
パスポートと一緒に持って行って

… これで向こうの税関抜ける迄は
公の場で止められる事は絶対に無い
―― でも
俺の家の力が及ぶのはそういう部分だけ

街に出てしまったら
殆ど効力が無いんだ

だからハシバさんや、
昔から新宿二丁目を仕切ってて
アズを知ってるオミヨさん達に頼んだ 』





< 477 / 752 >

この作品をシェア

pagetop