いばら姫
―― 布団を上げ、閉めた筈の押し入れが
半分、開いている
ぶらりと下がった足――
…こんな話聞いてないぞと
俺まで声を挙げそうになった時
『そいつ』は喋った
『……無用心だよ岡田さん
ポストに鍵って、
入ってくれって言ってる様なもんじゃん』
―――カラリと襖が大きく開いて
半分包帯に巻かれた顔の中の
灰色の目が笑う
黒いライダースは トン、と足を付き、
もう誰かは解ったのに
体が言う事を聞かない吉田さんに
その節から先の長い指を延ばした
「…… 灰谷 … 何で… 」
『 …言ったよ
あなたが困った時は助けるって 』
「―… だってお前 怪我は… 」
灰谷は、喉を反らして笑う
『… " セット "
撮ってたのはこの部屋の隣
―― 貴方達の会話は
ハシバさんからのマイクで全部聞こえてた
貴方が携帯を弄られた以上
確実に向こうサイドが紛れ込んでるから
警戒したんだ
… 現にこの部屋、
盗聴器仕掛けられてたよ 』
「… は?! 」
『 …もう外したから平気 』
――― この部屋に来たのなんて…
『…これ
パスポートと一緒に持って行って
… これで向こうの税関抜ける迄は
公の場で止められる事は絶対に無い
―― でも
俺の家の力が及ぶのはそういう部分だけ
街に出てしまったら
殆ど効力が無いんだ
だからハシバさんや、
昔から新宿二丁目を仕切ってて
アズを知ってるオミヨさん達に頼んだ 』