いばら姫




『…… 寒 』


空港の硝子扉から夕闇のロータリー
灰谷の第一声はそれ


すぐ横に海があって、薄い海の香りと
降りた途端に思った事だけど
なぜかバター風味

インドは香辛料の匂いがすると
誰か旅行好きの奴が言っていた気がする



パンフレットを見ると
"東海岸の玄関口、クイーンズ区
ジャマイカベイに位置した国際空港"
とある


『…JFKからマンハッタンへは
エアートレインと地下鉄か
シャトルバス
後は相乗りバンで行く方法があるけど 』


「吉田さんが
地下鉄には乗るなって言ってたな」


『…昼は比較的安全だけどね
―― 後は車輌の両端に行かないとか
最近は警官が構内に立ってるし』


「…またまた詳しいな
またネットか?」


『…夏は母親のオペラ趣味に付き合って
毎年来てたから
…俺は部屋に篭ってチャットしてたけど』


「―… お前、北海道とか行って
ラーメンとか海鮮食べないで
ファーストフード食べるタイプだろ 」


灰谷は『…当たり』と言って軽く笑った


――― しかし
空港のロータリーって言うのは
何処も同じで

家族を迎えに来た人
友達を待っているらしき、
画用紙にカラフルなマジックで名前を書いて掲げている人

―― 走り出して抱きしめ合い
キスを交わす恋人達
…これは日本じゃそんなに無いけど


車がごった返すそこに
イエローキャブの列を見つけて
少し感動していると
灰谷が俺の腕を軽く叩いた





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