いばら姫
頭で考えるより、
足が先に動いた
灰谷の姿を視界に入れようと頭を動かす
空いた場所を
無意識に選びながら走っていた俺とは逆に
灰谷は器用に体を移動させながら
バスが混み合い
輪になった場所へと進んで行く
人とバスが垣根になって
もの凄い勢いで
追い付きそうになっていた三人が
一時だけ足止めされた
けれどすぐに奴らは力ずくで人波を割って
液体金属ばりの走りで迫って来る
「……本場だからって冗談じゃねえよ!」
『…岡田さん!俺が足止めするから
どれでもいい!とにかく乗って!!』
「アホ!!年下が生意気言ってんな!」
――― 突然
激走しながら言い争う俺と灰谷の間に
黄色い斜線が飛び込んで来た
轢かれるまでに、かなりギリギリ
息が止まった
助手席のドアが開いて
運転手が身を乗り出しながら
独特のイントネーションで
日本語を叫ぶ
「―― オカダ!!
サカナは空を飛んだかい?! 」
咄嗟に身を乗り出して、
その主の顔を覗く
――――― 東洋人
写真で見た事のあるジョンは
浅黒い肌、唇が厚くて―――
「 早在!乘坐! 早来!!
アズルに会えなくなるよ!!」
『 岡田さん!!』
向かい側から後部席に乗った灰谷が
こちら側を開け、思い切りドアを蹴る
両脇から俺に
掴み掛かろうとしていた黒服の一人が
勢いよく吹っ飛んだ
運転席の東洋人が、両手を組んで
車の中から
残る一人の頭に振り下ろすが、
………これは利かなかった
だけど
その衝撃でサングラスの外れた顔に、
灰谷の手から水鉄砲が発射される
液体の色は赤
悶絶して顔を被う黒服の様子と
辺りを漂う臭気に
タバスコや唐辛子の
詰め合わせセットらしき事は判った
東洋人に腕を掴まれ、
車内へと引き擦り込まれる
車はターンして
ゴムの焼けた臭気と煙が立ち込め
上から何故か、
プレイボーイやら雑誌が降って来て
ドアをきちんと閉める事が出来たのは
高速道路に入る手前だった