いばら姫




「…メッセンジャー?」



車は裏道らしき所へ入り
修理工場みたいな倉庫
待っていた奴が居るのかシャッターが開く

中から現れたのは
2メートルはゆうにありそうな
イギリス人っぽい顔つきの男


「オカダ!これに乗って!
そいつはポール、仲間ダヨ!
日本語学校通ってるから、少し話せる
その彼に着いて行って!」


「―― 灰谷は?!」


『目的地は今聞いた!
寄る所があるから先に行ってて!
……岡田さん、
そのカッコ、似合ってるよ』


「…!!おま…
絶対面白がってるだろ!!」


灰谷はゲラゲラ笑い
タクシーは凄い勢いでバックして
建物の影へと消える




「 Everything OK? 」

「 …お、OK 」





――― ポールと二人
自転車に乗ってウオール街を走り抜けた


ビルの谷間に地下鉄への入口があって
ロングコートにスーツケースの男
スーツにスニーカーの女性が
そこへ向かって歩いて行く


「オカダサン!
マンホールに気をつけて下さい!」

「…あ、ありがとう!」


少し濡れた地面の黒い蓋からは、
白い蒸気

それに突っ込みながら、
ポールは一個のビルの前で自転車を停めた

自動ドアが開き、
普通に中へと入って行く


―― い、良いのか?



何処か、
エレベーターに乗って行くのかと
思っていたら
地下へ階段で降りて、厨房の中へ

白い服のコック達は、
軽く目をこちらに動かす位で
怒声を上げ、手を止めない


食材の積み上げられた裏口を開けると
すぐに、かなり古い感じの
居住用らしい低い建物にぶち当たった

階段を昇り、
電気のついていない廊下を歩いて
ポールは一番奥のドアの鍵を開いた

――― 埃っぽい部屋の中には
据置なのか、タンスが一つと
物置と化しているキングサイズのベット

かなり長い間
人は住んでいない感じだが
足跡だけが床に幾つもついている

「オカダサン、これに着替えて下さい

オカダサンが着て来た服やシューズ
とても目立ちますから 」





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