いばら姫
「 岡田!」
週末の宵
タクシーがひしめき合う
東京駅の、小さなロータリーで
必要以上に爽やかな笑顔――
新原が運転席から
声をかけて来た
「オデッセイル乗ってるのか」
「うん 何か、
スポーツ大会で優勝したら貰った」
…さすが業界人…
車は静かに走り出して
"新宿西口に向かいます"と
ナビのお姉さんが
電子音と共に
道路の画面を表示する
赤茶けた夕雲の下
街灯と車のライトが光り始めた
「あ、岡田
タバコ、いいよ?」
「いや おまえ、吸わないだろ
スポーツ選手だし」
「俺は吸わないけど
結構皆、吸ってるよ」
「マジでか? 」
「スポーツジムとか
フィットネスクラブとか
行った事ある? 」
「無いな 」
「……インストラクター控室とか
凄い事になってるよ」
「何が? 」
「…灰皿 山盛りだよ
AKARIさんから聞いたけど
看護士さんの控室も
似たようなもんらしい」
「……夢壊すなよ…
しかもそんなタバコ吸ってて
あれだけ動けるってバケモンか…」
新原は、大声をあげて笑った