いばら姫
「真木さんは
早生田の渕野、
覚えてらっしゃいますか?」
「え… ああ もちろん!
渕野は、柔道やってるギター弾きって
変わり種で…」
「僕は早生田のOBなので
渕野経由で、真木さんの
"天上のエクレシア"の論文
読ませて頂いていて
お名前を覚えてました」
「……もしや
神話好きですか? 」
「故障中、ファンタジーRPGに
ハマったりしてたので」
二人は笑いあって
松田さんが、面白そうな顔で
「くー 何だ?
そのエクレシアって」と聞く
真木空哉は、ちょっとだけ
照れ臭そうにしていたが
少し微笑みながら
頭を掻き、答えた
「…すっげーマイナーな神話で
最近少し、紹介されてたりも
するんですけど…
…ユピ族っていう
南米の小さな古い部族に伝わる伝説で
"自分達は、船から降りて来た
まだ上空には、
歌と青い宝石に埋め尽くされた
"エクレシア"と言う船がある
そこは至上の楽園で
それを呼べないのは
我々が、
歌を失ってしまったからだ"
…そんな伝説なんです」
「へえ… 舟系は結構あるけど
それは変わってるね」
松田さんは、腕を組む
「…俺が小さい頃
親父が外交官なんで
いろんな国に行ったんですけど
―― 近所の公園で友達になった子に
教えてもらったんです」
「松田さ〜ん! 真木さ〜ん!」
少し小肥りの
キャップを逆に被った男が
二人の名を呼んだ
「いけね 悪い!」
そう言いながら真木空哉は
その男にもコーヒーを渡しながら
「行きましょう」と
階段を降りた