いばら姫
――― 何処かに行くのか
慌ててドアを開くと
……フロアは照明で明るく
真ん中のテーブルのソファに座って
アズがカップに、お茶を入れている
部屋中に拡がった香りが
胸の辺りに入り込み
こごまっていた力が、ふいに抜けて行く
「 … 淳 」
アズは少し腫れた瞼を擦り
まだ眠いのか、
風景画が刺繍されたクッションに
アクビをしながら、顔を埋める
そして、パッと顔をあげたかと思うと
再び別のカップを上に向け
自分の向かい側に、お茶を入れ 置いた
―― そうやって
席を作ってくれたアズの前に
俺はゆっくり腰を降ろす
道路に面していて
結構風も強かった筈なのに
外の音どころが、
廊下から誰かの声がする事も無い
「 …… 髪 伸びたな 」
「―― うん " Raira Gara 'は
髪が長いんだよ 」
「…聞こうと思ってたんだ
何故、その名前なんだ ? 」
アズは碧い瞳を緩ませて
俺の目を見る
そして、蓋の付いた容器から
焼き菓子を何枚か出して
皿の上に並べた
「 …あのね
" エクレシア "のお話があるでしょう 」
「 ―― うん 」
「…Raira Garaは、船を動かせる
村の酋長の娘なんだけど
Rairaは 『雪』って意味で
Garaは、『村、村の中』なの 」
「――― それ 」
「 うん " ナカムラ ユキ ' 」
アズはクスクスと笑い
両手で口元を覆う
「 好きなのか その登場人物 」
「 うん
何処かの石版に残ってる言葉から
拾いあげた内容しか、
今はまだ判らないらしいんだけど
皆でご飯食べたり、すごく仲が良いの
だから、この話をクウヤに教えて貰った時
楽しいなあって 」
「 … そっか…
―― 歌も良かったぞ
今、あれ売ってるんだよな
買おうかな 」
「…あ、あげる! 今無いけど
仕事場にいっぱい…
あ!!
お煎餅持って来たんだけど食べる?!」