いばら姫



「… いいから座ってろって
久しぶりなんだから

お前、
そういう余計な物ばっかり持って来るから
スーツケースが閉まらなくなるんだろが」


「 …う 」


真木にも散々言われたのか
縮こまって腰を降ろす

アズは青いドレスのまま寝ていて
今もその姿だ

細い肩紐がずり落ち、
それを何回も直している


「… 早く何か着て来いよ
それと紐、少し直して貰え
お前 肩幅無いから 」


「 洗濯バサミで留めて来る? 」


「…おばちゃんじゃ無いんだからよ

とにかく、何か上に着て来い 」



目の前に灰皿があって
一本、吸った痕がある
フィルターが、黒と金だから
多分真木のタバコだろう


俺も箱を取り出して、
火を着け、思い切り吸い込んだ



「 あ! 淳!!聞いて!私ね?!
こっちで『 いちご煮 』食べたんだよ! 」



「 お マジか? 日本料理屋か何かか? 」


「 えっと…
ブロードウェイから少し逸れた所の
食べ物屋さん、沢山ある道判る? 」


「 ああ
何か、日本語で書いた看板の居酒屋とか
SUSHIって書いた店とかあったな 」


「 うん!
そこにある『MICHINOKU』って
お店に入ったんだけどね 」


「 うん どうだった?
鮑とか蛤とか入ってて美味かったろ」



「……… 本当に、苺煮たのが出て来た 」



「 ―――― ジャムじゃねえかよ」


「 で、でもでも!!
美味しかったよ?!甘くて! 」

「コーラと米一緒に食う奴の味覚は
信用成らないって前から言ってるだろ?!
ちょっと抗議して来るか その店 」


俺が部屋に戻ろうとする真似をすると
アズは本気で焦って止める


―― 俺は自然に笑いが洩れて


今まで必死に抑えていた
アズへの気持ちが溢れて来て
…… 本当はどうにかなりそうだった



アズの笑い顔を見ていると
―― 自分を包んでいる
全ての『影』が消えていくのが判る



… だけど
あのリスみたいな女の子は
まだ、タカオさんの手の中に居るんだ






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