いばら姫






人が倍に増えた
午後の明るい大通り





「―― 真木  手 」


「 たいした事ねえよ

…… しかしよくユカの携帯が
あんなトコにあるなんて判ったよな

…それに、
携帯ランプで見付けるなんて
思い付かなかったわ

サンキューな 」





――― 判った理由

"水谷にとって要らない物なら、
きっと同じ場所にあるだろう"


そう、何となく思っただけ


…俺自身
携帯にしても
大切な物はとことん使うけど
人から心配そうに問われる位、
躊躇無く、要らない物は捨てたし
邪魔にならない場所にすぐ纏めた

今は実家の押し入れにある
誕生日プレゼントの山
…あのダンボールしかりだ


それ以外でも
何か目につけば手に入れていたし
そんな中で、実際本当に必要な物は
あまり無いって事を
最近気が付いたけれど――



「 …岡田? 」


「――あ…  前
俺が夜、携帯無くした時
アズが…そんな風にして
手伝ってくれた事があっ…」



― 言い終わるより先に
俺の足首を、急に誰かが掴んだ

それが誰かは判っているのに、
かなり本気で驚き、体が跳ねる



「 …… あずるは… 」



その低い声と一緒に
真木が車を路肩へと停めた



『 …青山さん!! 』



「 よお! 青山

寝起きのトコ悪いけどな
朝からの事、話してくれや

ゆっくりでいいぞ 」





―― しばらく無言で
皆、青山の言葉を待つ


けれど頭を椅子のシートに乗せ
ぼうっと前を見るばかりで何も言わない


「 …青山? 」


『 真木さん 』



「――… 判ってる

青山あ!! 
これから、梅川さんトコに行くからな!
…しっかりしろよ?! 」



「… おかしくなっちゃ居ないよ 」


『 …青…? 』


「 ―― 岡田、煙草持って無いか…?」




青山は蒼白した顔を上げ
静かに笑った









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