いばら姫
『 … ベースを持った男
―― あれ、ハルトだったんだ 』
「 ――… 」
… 雪が溶けて
髪から顎に流れて来た雫を
肩で、グイと拭う
『 … カツラ被って、ボロボロのコート
顔も特殊メイクしてて、
全然判らなかったけど
―― 声で判った
" ルウは廃工場の地下に居る
だけど少し、待ってくれ
あの二人が、
どうやってルウの居場所に辿り着くのか、見てみたい " ――って 』
「 ――… 信じたのか 」
『 … 俺も、見てみたかったから
―― 岡田さんが一人で走って行った時
何だか嬉しかったよ
今も 』
「 ―… 何よそれ 」
ふて腐れた顔で、睨み返す俺に
灰谷は、いつもと違う
子供みたいな笑いを返して
抱えていた袋ごと、両手でこちらに渡し
そしてアズ達の居る、
縫製工場跡へと小走りして行く
「 おい! 灰谷
… 服渡してお前が先に行くって
全く意味ないべな! 」
灰谷は腰から上を廻し
俺の方を振り返ると、冷えた眼で凝視する
『 …二人だけ狡いじゃん 』
「 何がよ 」
『 … アズのハダカ 』
「 な?! おま…
そういう問題じゃねえべな!! 」
灰谷は "問答無用"と言った感じで
笑いながらシャッターを潜る
俺は大声で制止しながら
その後を、追い掛けた ―――