無糖

いつかの記憶

【いつかの記憶】

綺麗ね 綺麗よ



 いつだったか
 いつの日だったか
 僕の隣で
 誰かがそう呟いた

 泣いていた気がした
 隣に立つ女の子は
 表情を崩さずに
 ただじっと空を見つめて
 透明な雫を流しながら
 そう呟いていた


世界は 綺麗よ


 さあ っと風が
 女の子の髪を撫でた
 柔らかな髪が
 僕の肩を掠めた気がする

 拳を握った
 優しい記憶だったけれど

 あの女の子は誰だったのか
 僕は忘れてしまった
 誰だったのだろう


あなたも きっと 遠くへ


 '遠くへ行ってしまうのでしょう’
 その言葉の続きはきっと
 そう続いたのだろう
 ただ なんとなく
 なんとなく
 そう言われた気がした



 きみは誰だったのか
 僕は覚えてはいないけれど
 たぶん
 きみの言ったとおり
 僕はきみの知らない場所まで
 来てしまったのだろう
 
 だから僕は
 きみを忘れてしまったんだろう




 いつかの記憶は
 早足に
 僕を追い越して
 
 きみの言う
 遠くへ
 行ってしまうのだろう
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