桜雪、散る
それにしても、この少女は何故こんなところに寝ていたのだろう。


小学生の高学年くらいだろうか。


1人で、こんな夜に、パジャマで。


「リクエストはないの?」

どうやらどうしてもリクエストしてほしいらしい。


仕方なく、僕はカバンから一枚のハガキを取り出した。


『お誕生日おめでとうございます。誕生月のお客様に限り20%オフ!是非ともご利用下さい!―タジマ美容院』


彼女に手渡す。


触れた手が冷たくて驚いた。


「誕生日なの?」


こくんと頷く。


彼女は何も言わずに歌い始めた。


「ハッピーバースデー・ディア……タジマ~」


それは美容院の名前なんだけど。


曲が終わると、彼女はまたギターケースを差し出す。


誕生日ソングくらいサービスしてくれたっていいのに…


僕の心の声が聞こえたのか、彼女が口を開く。


「生活がかかっているから、サービスしてられないの」


生活がかかっている?


悪い冗談かと思ったが、なんだかいたたまれなくなりサイフから200円を出す。
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