ネガイゴト
空に近い場所
もう、水曜日かぁ。
境内の階段に腰を下ろして手帳を開くと、無意識のうちに溜息が出た。来週に入ると、立て続けに3つも全国模試がある。コツコツと準備してきたつもりだったけれど、今週は部活が忙しかったために、授業の復習をするだけで精一杯だった。このペースだと世界史はヤバイ。試験範囲を全部見直すのは、時間的に厳しいかもしれない。週末に追い込めば、なんとかなるかな・・・。
部活もあるし、今週も、あんまりゆっくりできないんだ・・・そう思って、私は憂鬱な気分になった。
二年生になるまで、一週間がこんなに速いスピードで過ぎていくものだなんて感じたことはなかった。このまま、大学受験が近づくにつれて睡眠時間はどんどん減っていくんだろう。
私は、ベンチに深く腰掛けて、思い切り空を振り仰いだ。向こう側が透けて見えそうなほど澄んだ青い空に、わた菓子みたいにやわらかそうな雲がふわふわと漂っている。
水曜日のブルー。
水曜の午後は、週初めの二日間の成果と、次の二日に残された課題を思って途方に暮れる。小高い丘の上にあるこの神社からは、街の中心部を見渡せる。天気の良い日は鳥海山も見える。鳥海山の凛とした佇まいは、神々しささえ感じさせる。一見、静かに佇んでいるように見えるけれど、あの中には熱いマグマが流れているんだ。山が気高く見えるのは、内に秘めた激しさと熱さがあるからなんだろうか。気高くなるためには、熱が必要なんだろうか。
ここにくると、いつもそんなことを考える。
通学途中、または下校途中。日に一度は、通学路にあるこの神社に立ち寄るのが私の日課になっている。今日みたいに、部活がなくて明るい時間帯に帰れる日には、こうして神社と同じ敷地内にある公園に寄り道してぼんやりと考え事をする。
そして、一日一枚の五円玉に、今日一日の幸せを託すのだ。幸せ?それが何を指すのか。自分が何を望んでいるのかは自分でもよくわからない。本当は、何も望んでいないのかもしれない。けれど、そうでもしなければ、五円玉だけで財布がはちきれてしまうのだ。
ひかりモノを集めるカラスじゃあるまいし・・・。膨らんだ財布を見て、私は思わず苦笑する。五円玉を使えないのは、子供の頃からの癖だった。
< 1 / 4 >

この作品をシェア

pagetop